(実話)インド アムリトサル ワガ国境のセレモニー
インドのアムリトサルから1時間ぐらい西に進むと、パキスタンとの国境であるワガ検問所に到着した。
ここでは毎日、17時頃から国境を締める前に、盛大なセレモニーが行われる。
検問所に着くと、インド人は1キロ以上は続くであろう行列を作って、セレモニー会場に入場するのを待っていた。
セレモニーを見に来た外国人は、ワガ検問所では優遇されている。
国境セレモニーが行われる国境の門に、一番近い席に優先的に通されるのである。
インド人の行列に並ぶ必要はなく、直接セレモニー会場の入場口に行けば良い。
門番にパスポートを見せれば、外国からの賓客ということで、インド人よりも早く会場に入ることができる。
三毛は、野球場のような立派なドーム会場に入って、一番奥の外国人見物席に座った。
早く到着したので最前列の席を確保できた。
5分ぐらいすると、ジュース売りの30代ぐらいの男性が小さな段ボール箱を持ってやってきた。
私は会場の外で、大容量の冷たいマンゴージュースを買っていたため、入らないと断る。
するとこれは差し上げます、あなたはインドの賓客だから、お金は入らないですと言ってくる。
売り子の切り返し方が素晴らしい。
こういう場合に、もらってすぐに飲んでしまうとロクなことがないと、すぐに直感で悟った。
インドでは、他人から不自然にもらった食べ物や飲み物は、絶対に口にしてはいけない。
睡眠薬が入っている危険性があるからである。
大勢の観衆がいるため、ここでは睡眠薬は大丈夫だろうが、後で金をぼったくりに来るパターンだろうと思った。
すぐに返そうとしても、一向に受け取らない。
男は次の獲物を探しに、階段を上がっていった。
冷えた紙パックのジュースだったが、横の席に放り投げて、そのまま放置しておいた。
セレモニーは、大袈裟で面白かった。
互いの国の、国境警備員は極限まで足を高く上げて、靴底を鳴らしながら、相手を威嚇する。
複数のインド人の観光客女性に、大きな国旗を持たせて、門の近くまで行進させたりもした。
お互いの国境警備員の表情は硬いままで、怒りの感情など微塵も感じることはできなかった。
それもそうである。
もし戦争になったら、真っ先にお互いが戦わなければならないため、普段から仲良くしておくに越したことはないからだ。
国旗を下ろす手順も全く同じで、その速度も阿吽の呼吸でピッタリと一致していた。
自分の国の国旗を、もし先に下ろすと、負けを認めることになるからである。
門が閉まる瞬間、国境警備隊の隊長同士が、最後にサッと握手をした。
わずか1秒ほどの時間である。もし目をまばたきしていたら、見逃していただろう。
三毛の気持ちが、晴れ晴れとした嬉しい瞬間だった。これを観れて、よかった。
帰ろうとすると、外国人にジュースをタダで配っていた男性が案の定、集金にやってきた。
三毛には何も言わずに、温くなってしまった小さなマンゴージュースを回収する。
後ろの席のアメリカ人家族は、彼が配ったジュースやスナック菓子を、全て食べてしまっていた。
相場の2倍近くの割高な料金に文句を言いながら、夫がお金を渋々払っていたのを、よく覚えている。
インド人のしたたかさを、詐欺寸前の売り子を見ながら、三毛は学んだのである。
三毛イキルのプロフィール 外こもり写真(フォトAC 全てダウンロード無料)
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2024年2月~7月のインド・ネパール写真を、Adobe stock・フォトACに追加しました。
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